2007年09月29日

能高越嶺古道−13:富士温泉

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【写真説明】左写真は、台湾中部の有数の温泉街、盧山温泉の中に設けられた公園内で見掛けた日本時代の石碑。この地が嘗て「富士温泉」と呼ばれたことが判る。右写真は同公園内に建てられている蒋公行館。その前身は日本時代の警察招待所で、復元されたもののようであるが判然としない。松と石垣だけが日本時代の名残りである。

これまで何度も足を運んだことのある盧山温泉であるが、台湾中部(台湾地理中心である埔里から西北西へ約50キロの地点なので正に中部)の著名な温泉街にも拘わらず温泉街全体を歩き廻ったことがなかった。大体台湾の有名な温泉街なるものは休日は猥雑なもので興味をそそられない。それでも、日本時代の警察招待所が復元されているという類のことを耳にしたことがあったので、今回は温泉街の一番奥まで足を運んでみた。

温泉街の奥はタロワン(塔羅湾)渓とマヘボ(馬海僕)渓に挟まれた場所で、そこには公園が設えてある。公園の奥には大袈裟な中華風な建物に収まった警光山荘(警察保養所)があり、その前身は日本時代の警察招待所ということだ。以前本ブログで紹介したように、台湾全土の警光山荘の多くが日本時代の警察招待所を前身としている。この公園を挟む形で二棟の真新しい平屋の日本家屋が建っており、その内の一棟が「蒋公行館」だと案内板にある。「蒋公行館」とは蒋介石の別荘のことであるが、台湾全土に何棟現存しているのか筆者は知らない。今年(2007年)四月に焼け出され大騒ぎになった台北市北投区陽明山麓の草山行館(1920年、大正9年)も蒋公行館の一つで、当時の台湾製糖株式会社が皇太子だった昭和天皇が台湾を訪問する(1923年、大正12年)際に招待所として建立したものである。このように蒋介石の別荘の前身はその多くが日本時代の招待所を前身としている。盧山温泉内の現在の警光山荘と真新しい蒋公行館との関係は判然としない。筆者が想像するに、元々の蒋公行館は警察招待所を襲い、戦後現在見る警光山荘の建物に改築、その後、警光山荘として一般に開放されたと思われる。今、蒋公行館と称して公園内に建てられているものは、日本時代の警察招待所、つまり、もともとの蒋公行館の復元だと思われるが、復元ならば忠実に復元されているのかどうかは大いに疑わしい。いずれにしても二棟の日本家屋は今何に使われているのか見当付かず仕舞だった。

そのようなことを考えながら公園内を見渡していると、警光亭という額が掛けられた涼亭に前に石碑があることに気付いた。それが今回の記事冒頭の写真である。石碑に説明板は付設されていないが、近付いて読んでみると何と「富士温泉開設由来之記」である。ここが日本時代は富士温泉と呼ばれていたことをこの時初めて知った。碑文の文字は摩滅したり故意に粘土で文字をうめられた跡があり碑文全文は読みにくくなっている。つまり、この碑が元々実際現在の地に建てられていたかどうかは怪しい。碑文の全文は以下の通りである:

「富士温泉開設由来之記/ 古來此地ニ温泉湧出シ鳩鹿等之ニ浴シテ傷ヲ養フノ奇蹟/ ア○○遠近ノ高砂族亦病ヲ得テハ此ノ地ニ留(リ)テ療治/ スルモノ○○ラズ○○マ昭和十○年○月此(ノ)時ノ能高郡豊福/ 警察課長此(地)ヲ巡視シ其レ世二モ類稀ナルヲ識○選○テ埔里街官民有志並ニ霧社臺電關係者ラ諮リタルニ衆議直/ ニ一決シ○ニ○発○起工○ナレリ今○霧社潭ノ竣功/ ○リ能高横断道路ノ開通近シ須ラク閑ヲ得テハ俗塵ヲ逃/ レテ此ノ仙○○來ノ○浴以テ傷病ヲ治シ或ハ四國ノ風光/ ヲ賞○シツツ湯○ノ気ヲ養ヒ以テ一旦緩急アレバ義勇公/ ニ奉ズルノ心○ヲ鍛錬セラレンコトヲ聊カ誌シテ富士/ 温泉由來ノ辭トス/ 昭和○○年○○建之 埔里街官民有志一同/ 埔里街長渡邊誠之○撰文」(○は筆者判読不能、「/」は碑文中の改行、「()」は筆者の推定)

残念ながら碑文には温泉開発の由来は述べられてはいても、何故「富士」の名を選んだかは記されていない。「高砂族」、「能高郡」、「警察課長」、「埔里街」、「霧社」、「能高横断道路」等の語がこの地の歴史を如実に物語る。「一旦緩急アレバ」というのは、この碑文が建てられたのが昭和十年代前半と考えられるので、霧社事件(昭和5年)のことも暗喩しているようだ。その後、ネットで検索してみると、現在台湾で盧山温泉の歴史を説明する際は、この碑文に拠っていることに気付いた。(終わり)
posted by 玉山 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 能高越嶺古道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
一旦緩急アレバ
は教育勅語の大切な一文です。霧社事件でなく台湾老人達の日本精神の部分です。
Posted by たけ at 2015年08月26日 10:53
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